2013年10月01日

シレンとラギ ゲキ×シネ 鑑賞感想

劇団新感線2012年春興行 いのうえ歌舞伎と銘打たれた本公演は、2009年「蛮幽鬼」以来のいのうえ歌舞伎新作。
蛮幽鬼でも登場した暗殺者の一族、狼蘭族の血を引く北の暗殺者シレンと、やはり北の国の侍所守護頭ラギの物語。

2012年、初夏の青山劇場での公演を一度だけ見たきりだったがこの秋からゲキ×シネとして全国の映画館で上映中。
梅田ブルク7のレイトショーにかかっていたので観に行った。
ラギを演じる藤原竜也の強烈な演技、小柄で可憐な見た目とは裏腹の壮絶さを持つシレンを演じる永作博美が印象的だった。

物語は対立する北と南の国を舞台にして進められる。
北の暗殺者シレンは20年前に南の王を暗殺することに成功する。が、その死んだはずの王が生きていた。
シレンは急ぎ南の国へ戻り、今度こそ王の暗殺を成功させるという役目を負う。その使命に、シレンに憧れを抱くラギも同行する。
果たして南の王は生きていた。凄惨な使命を前に、ラギはシレンに男として惹かれていく。
北と南、二つの国の動乱の中愛しあう二人の前に突きつけられる悲しい事実。
「お前たち、畜生道に堕ちたか!」
結ばれてはならなかった二人の行方と、国と国との争いに渦巻く野心・裏切りが交錯する重厚な時代活劇。

主演のふたりも素晴らしかったが、南の王ゴダイ大師を演じる高橋克実に驚いた。
人のよいおじさん、優しくて少し気の弱いお父さん。そんな印象を抱きがちだったのだが舞台の上のゴダイは正反対。
冷酷で傲慢。「人は神の椅子だ、だから私は神の代わりにお前たちの上に座る」と人を椅子にしたりする。
欲しいものは手に入れる、従わない者には恫喝を浴びせる、そんなゴダイは恐ろしくて時にセクシーだった。
狂気を孕んだ王で、物語の軸の中で主人公たちと対立し悪の色が濃いキャラクターを演じるのが高橋克実?という意外性が観る前はあったがこれがどうだか!
素敵!と屈服したくなるような色気と存在感。新感線の看板俳優古田新太と睨み合っても負けないほどの厚みだった。

きっと生まれて初めて女として人に寄り掛かることをしたシレンとそれを受け止めるラギの抱きあうシーンが、切なくて涙が止まらなかった。
もたれかかるように寄り添う二人が冷酷な運命に堕ちていくその様が哀しい。
ふたり手を取って生きていくことはできないと知った後にラギがシレンに問うた。
「それは母親として?それとも女として?」
ラギは分からないと答える。そしてもう一度終幕前に同じ問いを投げかけられたラギは振り返って答える。
「人として。」
男女としても親子としても繋げなかった手を繋ぐことの出来る答えが人としてだった時にハッとする。
血飛沫の中舞台の奥に消えていく二人の姿は美しかったと思う。

主演の二人のドラマも濃厚でよかったが、脇を飾る人物たちにもそれぞれのドラマが見え隠れするところが憎い。
下手するとギャグ要員とも捉えられかねないゴダイの妻モンレイや娘マシキ、彼女たちにも彼女たちなりの思惑や考えがあり、人生がある。それがちらりと見える瞬間にハッとストーリーの深みを感じた。
北の侍所の長、古田新太演じるキョウゴクの二面性や、三宅弘城演じる北の王ギセンの殺陣など、見どころは言い出したらキリがない。
これは余談だが、南の宮廷幹部シンデン演じる北村有起哉の演技は、どうも個人的な琴線にピタッとフィットするようで何を見ても何度見ても泣いてしまう。

また、今年はゲキ×シネ10周年ということで過去の上映作品のレパートリーが行われており、ブルク7のロビーもゲキシネ祭だった。
シレンとラギ ゲキ×シネ 鑑賞感想

次はブルク7で11月上映の「蜉蝣峠」を観ておきたい。
こちらは堤真一出演、宮藤官九郎脚本といろいろ豪華な「いのうえ歌舞伎壊Punk」。
梅田ブルク7でのレパートリー上映は11/16~11/22までとのこと。

また、劇団☆新感線は2014年春興行も決定している。演目・出演者は未定だがいのうえ歌舞伎新作とのこと。こちらの仮チラシも劇場で見っけ。
シレンとラギ ゲキ×シネ 鑑賞感想
更に2014年春は「五右衛門ロック3 ZIPANG PUNK」のゲキ×シネ上映も決定。こちらは仮告知ポスター見っけ。
シレンとラギ ゲキ×シネ 鑑賞感想

2014年春は劇団☆新感線にとってもファンにとってもお祭り騒ぎの春になりそう。


Posted by 野村 千代  at 03:02 │Comments(0)感想文

※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

このページの上へ